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2006/04/04(火) 00:00:00 随分前の事であるが、知り合いからCDを何枚か借りてDATにコピーしたことがあった。いつもは丁寧にINDEX等の記録を取っておくのだが、何も書いていないDATが一つだけ出てきた。 「何が入っているのかな?」とテープを整理しているときに何気なく聴いてみた。 そこからは重厚なパッド系サウンドから温かいハモンド・オルガンの音色が染みいるように出てきた。 「何て温かいハモンドなんだろう?」 ハモンド・オルガンにおける個人的歴史はやはり「青い影」(プロコルハルム)を初めて聴いたときに始まる。当時はハモンド・オルガンも知らず、当然レスリー・スピーカー(回転スピーカー)も知らなかった。 とにかく新鮮で美しいサウンドに酔いしれたものだ。 それから衝撃的だったのが当時無名だった”ヴァニラファッジ”の「You Keep Me Hanging On」をTVで見たときだ。とにかく驚いた兄と私は直ぐにヴァニラファッジのアルバムを買った。 ハモンドの特色はパイプオルガンと同じように倍音構成をアレンジして様々な音色を創れるところにある。そしてドプラー現象を利用したレスリー・スピーカー。アンプ内蔵の2Wayスピーカーシステムで、高音部にはドライバーを使用して、幾つかのホーンが回転するようになっている。低音部は固定ウーハーに「野菜の水切り器」のようなダクトがバスレフ状になっておりそれも回転する。そのスピードコントロールが実に単純で面白い。 確かストップ・低速・高速の三段階。しかしそれが機械式なので実に反応がアナログ的なのである。つまり低速で回すとゆっくりな回転でハモンドは大きなうねりを上げて重厚感を醸し出す。それを高速にスイッチングすると微妙な加速感でうねりはヒステリックな感じで叫ぶようなトレモロ・サウンドに変化する。そして高速から低速に戻すと、今度はゆっくりと回転を下げていきサウンドも落ち着いてくるのである。つまりあたかも感情を持ったシステムなのである。 巧みなハモンド奏者はレスリーの使い方が上手なのである。 先のヴァニラファッジのレスリーの使い方には素晴らしいものがあった。ジャズ系やロック系でも演奏の上手なオルガニストは多いがレスリーの使い方が下手な人は自分的には致命的であった。 話は戻るが、そのDATに入っていたハモンドはとにかく人を引きつける何かがあった。 「誰なんだろう?」 ギターはハイラム・ブロック臭いなぁ・・・。ベースがギターっぽいなぁ・・・。 基本はジャズだなぁ・・・ と色々考えてみて結論が出た。 「ベースはスティーブ・スワローに違いない!」 「と言うことは・・・・カーラ・ブレイだ!!」 今まで名前は知っていたがカーラ・ブレイの音楽をよく知らなかった。 テクニック的にはさほど凄くもないのだが、その歌心というかリズムの取り方、レスリーの使い方が半端ではない。とにかくその音の世界に引き込まれ涙が出そうになるくらい包み込まれるのである。 「こんなに凄いハモンドを弾く人がいたんだ!!」 スワローは好きなベーシストではないので興味がなかったのだが、インターネットで調べるとやはりデュエットアルバムのようだ。しかも廃盤になっているのが多いようだ。 インターネットで調べていると彼女のコメントを見つけることが出来た。 「私は世界トップのピアニストではない。しかし世界トップのジャズ・コンポーザーである自信がある」と・・・。 いやいや私は「カーラ・ブレイは世界最高のハモンドオルガン奏者だ」と思う。 こんなに叙情あふれるハモンドを今まで聴いたことがない。ジミー・スミスやオルガンの達人は多いが私にとっては上手なだけと言うと失礼だが、フレーズやテクニックは楽しいが心に染みるものではないような気がする。そしてスワローのベースも私のタイプではないが実に良いのである。 「下手うま」と言う言葉があるが、私にとってカーラ・ブレイは「上手うま」になる。 「上手へた」のガレスビーに対してマイルスが「上手うまに近い下手うま」。 「上手ベタ」のチックコリアに対してハンコック。 パット・メセニに対してラリー・カールトン。 カールトンに対してジェフ・ベック・・・みたいな構造が私にはある。 カーラ・ブレイのハモンドには久々に愛おしい音に出会った感がある。 タイトルが分からないので取りあえず今手に入る三枚のCDをオーダーしてしまった私である。 |